2016年5月10日(火)、株式会社セミナーインフォ主催により、大阪市北区のコングレコンベンションセンターで「金融フォーラム2016 in 大阪」が開催された。このフォーラムは、業界を取り巻く環境変化や規制の動向等、付加価値の高い最新情報を提供するための情報イベントであり、大阪では2回目の開催となる。
今回は、「〜規制対応と金融イノベーションの進展〜」をテーマに、全6セッションが開かれた。まず基調講演として、金融庁総務企画局企画課信用制度参事官室企画官の神田潤一氏が登壇。「FinTechの活性化に向けた金融庁の取り組み」と題して講演していただいた。
これを受けて、4つのセッションが行われ、最後に、前金融庁長官で岩田合同法律事務所 特別顧問の細溝清史氏により、「金融経済情勢と地域金融機関に期待される役割について」と題して特別講演が行われた。
【基調講演】
FinTechの活性化に向けた金融庁の取り組み
金融庁 総務企画局 企画課 信用制度参事官室 企画官 神田 潤一 氏
まず、「FinTechの活性化に向けた金融庁の取り組み」と題して、金融庁総務企画局企画課信用制度参事官室 企画官の神田潤一氏による基調講演が行われた。
神田氏は、最初に金融審議会において、決済業務の高度化が金融グループのIT戦略や、グループ全体の経営戦略の問題とも密接に関連するという問題認識が高まっていると指摘。金融機関を取り巻くFinTechの動向と新たなサービス展開、FinTech等を活用した金融サービスと規制体系について図示して解説。最近の国際的な議論では、持ち株会社を中心とした金融グループ全体の健全性等を母国当局が責任を持って監督していくべきという流れがあると述べた。
次に、情報通信技術の進展など環境変化に対応するための銀行法等の一部改正法案の概要について解説。金融審議会のワーキング・グループ報告における提言を紹介し、金融グループの経営管理の充実、持ち株会社による共通・重複業務の執行、グループ内の資金融通の容易化、金融関連IT企業への出資の柔軟化など、制度面による手当てについて説明。仮想通貨に関わる法制度の整備についても触れた。
最後に、金融庁におけるその他の取り組みとして、金融行政方針について解説。海外調査や内外の担い手との対話を通じ、FinTechの動向をできる限り先取りして把握。技術革新が我が国経済・金融の発展につながるような環境を整備することを述べ、サイバーセキュリティの強化やアルゴリズム取引等への対応についても説明した。また、「FinTechサポートデスク」を設置し、IT技術の進展が金融業に与える影響を前広に分析するとともに、金融イノベーションを促進していくと述べた。
FinTech時代の新・金融マーケティング
株式会社アサツー ディ・ケイ 第1アクティベーション・プランニング本部 本部長
兼 金融カテゴリーチーム・リーダー 森永 賢治 氏
基調講演に続いて、「FinTech時代の新・金融マーケティング」と題して、株式会社アサツー ディ・ケイ第1アクティベーション・プランニング本部本部長兼金融カテゴリーチーム・リーダーの森永賢治氏が報告した。
森永氏は、2015年は日本におけるFinTech元年の年だったとして、スタートアップ企業や商品、サービスが次々と登場し、新たな時代の幕開けになったと説明。2016年には、FinTechは“金融”からあらゆる分野へ波及し、業界を超えた「テーマ」になると指摘した。
次に、それを踏まえて、新しい金融マーケティングを5つのキーワードで解説。1つ目の「Daily relations」では、「一生つきあえる」から「毎日つきあえる」へ、オムニ・チャネルが目指す「接点頻度」がアップ。ユーザーの接点が金融機関ではなく、スマホのアプリになると述べた。ポイントとなるのは、家計や資産管理にゲームの要素を取り組むこと。楽しみながら、意図せず、関わってもらうことになると述べた。
続けて、「Behavioral Marketing」(与信は「デモグラ」から「個人の“振舞い”」へ)、「Unconscious Action」(「支払い」や「貯蓄・運用」を無意識に)、「Risk Share」(「自己責任」ではなく、「リスクもみんなでシェア」するという発想へ)というキーワードを紹介して解説。5つ目のキーワード「EnterPayment」(「決済・支払」は「コミュニケーションの場」へ)では、LINEで友達との割り勘やお金の貸し借りを行うなど、コミュニケーション上に“決済”が乗っかるという新・発想が生まれると述べた。
金融機関の法務DD自己チェック〜人事労務から反社対応まで〜
弁護士法人中央総合法律事務所 代表社員・パートナー 弁護士(日本/NY州)
中務 正裕 氏
ランチサービスの後、「金融機関の法務DD自己チェック〜人事労務から反社対応まで〜」と題して、弁護士法人中央総合法律事務所代表社員・パートナー 弁護士(日本/NY州) 中務正裕氏が報告した。
中務氏は最初に、コンプライアンス(不祥事)対応について説明。原因分析や会社に注意義務違反があったか、予見可能性があったかといった実体法的なアプローチとともに、不祥事を防ぐための組織・体制が整備されていたか、その組織体制に基づく、手続きがきっちりと取られていたかという適正手続の重要性を指摘した。
次に、労働事件の最近の傾向を紹介。時代背景による変化として、過労死やメンタルヘルス、セクハラ、パワハラ、サービス残業などの問題が増えていることを説明。解雇・退職を巡る問題については、記録をとっているか、注意・指導監督を行っているか、改善の機会を与えたか、といったチェックポイントを挙げ、人はモノではなく、教育の配慮が必要だと述べた。また、メンタルヘルスやセクハラ、パワハラの問題についても、最近の判例とその対処法を解説。パワハラでは、指導監督はあくまで人事権の範囲内で行うようにして、濫用を戒めるとともに、仕事ができるほど注意が必要だと述べた。
最後に、対外的な問題として反社会的勢力との関係遮断を中心に、最近の判例や民事介入暴力への取組みをふまえ、反社勢力との問題を整理。何がポイントとなるか、その対応策について解説した。まとめとして、不祥事防止のためには、自分なりのチェックリストを作成しておき、それを念頭に業務に当たることが大切であると述べた。
金融イノベーションの潮流における価値創出のためのITガバナンス
有限責任監査法人 トーマツ 関西アドバイザリー部 シニアマネジャー 石井 秀明 氏
続いて、「金融イノベーションの潮流における価値創出のためのITガバナンス」と題して、有限責任監査法人トーマツ関西アドバイザリー部シニアマネジャーの石井秀明氏が報告した。
最初に石井氏は、これまで金融機関にはITリスク管理といった守りの姿勢が求められていたが、環境変化を踏まえ、ステークホルダーへの価値を創出する攻めのITガバナンスへの変化が重要になってきていると説明。金融イノベーションは、いまや世界経済における重要なテーマだと述べた。
次に、攻めのITガバナンスのフレームワークであるCOBIT 5を紹介。COBIT5では、CIOの視点からCEOの視点へとスコープが進化。プロセスや組織、システム、人材を中心に、原則、文化、情報を含めた7つのイネーブラー(ITガバナンスとITマネジメントの機能に影響を及ぼす要因)により多面的な観点から、実効性のある全社的ITガバナンス態勢を構築するできることを説明した。
続いて、トーマツが提唱する事業体ITガバナンスモデルについて紹介。ステークホルダーニーズに基づき、受託者責任と説明責任を遂行し、ガバナンスプロセスを通してイネーブラーを確立。イノベーションをガバナンスに組み込んで持続的な変革を実現すると説明した。
最後に、イノベーションによる価値創出のためのイネーブラーの確立例を紹介。価値創出のための管理プロセスを高度化し、イノベーションを担う組織を社内に作って外部組織と連携するという組織構造イネーブラーの確立例について説明。価値創出の組織文化を醸成することにも触れた。
地域金融機関の今日的課題〜地方創生と業際競争における法的問題〜
岩田合同法律事務所 パートナー 弁護士 田路 至弘 氏
続いて、「地域金融機関の今日的課題〜地方創生と業際競争における法的問題〜」と題して、岩田合同法律事務所パートナー弁護士の田路至弘氏が報告した。
田路氏は、まず地域金融機関の取り巻く状況について説明。人口減少や東京一極集中、経済格差の拡大など危機的状況に晒されており、フィンテックの進展や事業会社等の異業種企業による銀行業への参入が本格化し、預貸金決済業務が他業種から浸食されていると述べた。しかし、ピンチはチャンスであり、昨年政府が打ち出した地方創生の推進という方針が具体化するにあたり、地域金融機関が積極的に関与することで、ビジネスチャンスの拡大を図れると説明した。
続いて、ピンチをチャンスに変えるカギは、地方創生とイノベーションにあり、当該地域に関する情報と人脈を有する地域金融機関だからこそ、イニシアチブを取れると説明。日本版DMO(観光地まちづくり組織)での金融機関の役割や、クラウドファンディングに関する法的規制m飛騨信用組合の取組、都市型CFを利用したスキーム、移住促進に関するある地銀の取組などを紹介した。
最後に、仮想通貨とまちおこしに対する銀行の関与の仕方を説明。また、フィンテック関連企業との関わり方について、対処すべき法的課題は何なのかについても解説し、起業への投資や地方創生型投資スキームについても説明した。
【特別講演】
金融経済情勢と地域金融機関に期待される役割について
前金融庁長官 岩田合同法律事務所 特別顧問 細溝 清史 氏
最後に、「金融経済情勢と地域金融機関に期待される役割について」と題して、前金融庁長官で、岩田合同法律事務所特別顧問の細溝清史氏による特別講演が行われた。
細溝氏は、急激に変化する金融・経済の環境について、マイナス金利政策において予想されるリスクや中国経済の状況、原油など資源価格の変動、アジア各国の起業債務やアメリカ金融政策の影響を踏まえて解説。
次に、平成26年7月、平成27年7月に好評された金融モニタリングレポートを使って、地域金融機関を取り巻く環境が変化する中、どのような役割を担っていくべきかについて解説。人口減少や地域を取り巻く環境の変化、その他の影響を考慮しながら、地域資源の活用や地域企業・産業への関わり方を含めて説明した。
最後に、平成27事務年度の金融行政方針の概要をもとに、金融行政の目指す姿や重点施策、国内で活動する金融機関への対応を見ながら、地域金融機関に期待される役割について説明した。