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アフターレポート

2016年7月8日(金)、セミナーインフォ主催にて「FINANCE FORUM 〜FinTechがもたらす金融ビジネスモデルの革新〜」が開催されました。

金融業界を席巻する「FinTech」をテーマに、監督官庁の立場からの取り組み紹介をはじめ、金融ビジネスへのインパクトやアジアパシフィック各国の最新動向、法規制をとりまく動向等、さまざまな切り口から最新情報をお届けし、約300名の金融機関の方々にご来場をいただきました。
【基調講演】

FinTechの活性化に向けた金融庁の取り組みと
今後の課題

金融庁 総務企画局 企画課 信用制度参事官室 企画官 神田 潤一 氏
金融庁 海外でのFinTechの動きを契機に、金融庁としても2014年頃から問題意識を持ち始め、ITベンチャーなどが金融ビジネスを担い出す、いわゆる「銀行業務のアンバンドリグ化」という構造的変化の中、日本の金融機関はどこまで革新的な取り組みができるだろうかという議論がなされてきた。

日本ではこれまでも、90年代以降、IT活用による金融サービスの高度化が行われてきたのではあるが、近年のFinTechは、その担い手がネット企業など金融規制の外に広がっている点、そしてその動きが、急速な技術革新に後押しされて一層加速しているという点が、過去からの流れと大きく異なる。

また規制面も大きな転換期を迎えている。現在は、銀行法が決済・融資サービスを、金融商品取引法が投資・運用サービスを、というように、個別法の下で各サービスを管理する体系となっている。一方でFinTechビジネスは、例えば投資・運用と融資を結び付ける機能を持つなど、現行体系に当てはまらないものが登場してきており、抜本的な制度見直しが求められている状況だ。

これを背景として、今年5月に「情報技術の進展等の環境変化に対応するための銀行法等の一部を改正する法律案」が成立した。1年以内の施行を目指す本法案は、主に4つの要素に分けられる。まずは「グループ経営管理の充実」。グループ一体経営を推進するメガバンクの動きや、経営統合を進める地銀の動きを踏まえ、利益相反調整、コンプライアンス体制整備など、グループとしての経営管理の充実を図っていく。

2点目は「共通・重複業務の集約」。グループ内業務集約を制限する現行規制を緩和してシナジーを高め、アームス・レングスルールの緩和により柔軟なグループ内資金融通を可能とする。

3点目は「技術革新への対応」。銀行が出資可能な業務範囲を「金融サービスの向上に資する業務」にまで拡大する法改正は、金融機関とITスタートアップとの提携を可能にし、欧米が先行する「オープン・イノベーション」を日本に取り込むことを狙っている。

そして最後に「仮想通貨への対応」。まずは最低限の環境整備として、「マネロン・テロ資金供与対策」と「利用者の信頼性確保」の2点を整備し、今後流通拡大に合わせて柔軟に見直しをしていく方針だ。

法整備と並行し、決済高度化への取り組みも推進している。昨年12月のWG報告書で示されたアクションプランに登場する主要13項目を議論する場として、6月8日に「決済高度化官民推進議会」も発足した。主要13項目の一つに挙がっている「決済インフラのXML電文移行」は、電文活用度の向上を狙うもので、経産省が取り組む「受注等商流EDI化」と一体的に進め、2018年サービス開始、2020年移行完了を計画している。

他にも、「送金フォーマットの国際標準化」、「ロー・バリュー国際送金の提供」、欧米が先行する「携帯電話番号による送金サービス」、参加者間の共有による情報管理「ブロックチェーン技術」、他事業者が銀行システムにアクセスするための共通基盤化された接続口「オープンAPT」などが主要13項目に含まれている。

金融庁として全方位的な改革に取り組んでいる中、課題も残っている。例えば、現行規制の下では、銀行免許が無い事業者でも、個々に各分野での登録を行うことで、総合的には銀行のようなビジネスが成立してしまという状況にあり、これには危機感を持っている。

また、銀行グループと一般事業者の間で、子会社を含めた業務範囲の自由度に差異がある点も見直しが必要だ。イノベーションをサポートしつつ、有効的な管理を実現できる体制の構築を急ぎたい。

ITの発展がもたらす金融ビジネスへの影響

有限責任 あずさ監査法人 金融事業部 シニアマネージャー 保木 健次 氏
弁護士法人中央総合法律事務所 日本における銀行固有業務は、公共性維持の観点から、免許制で厳格に管理されてきた。そこに近年、届出や登録で参入可能な分野から切り込んできたノンバンクプレーヤー達が、銀行類似ビジネスを展開し始めているというのが、FinTechの流れの一つだ。この流れが金融ビジネスに及ぶす影響を、ブロックチェーン技術と仮想通貨を切り口に整理したい。

ブロックチェーン技術は、改竄や不正利用が極めて難しい環境の中で、価値記録データの転々流通を可能にする点が最大の特徴で、これは経済活動を構成する2つの要素、即ち、ものやサービスの受け渡し「デリバリー」と、資金決済「ペイメント」の両サイドに大きな影響を与えている。

現在は銀行が主役となっているペイメント側において、この技術を活用したものが仮想通貨だ。一方、無数のビジネスで構成されるデリバリー側でも、例えば証券、シンジケートローン、保険など、この技術の応用が可能な金融関連分野は多くある。

仮想通貨のメリットは、国際送金にかかる時間やコストの大幅削減に加え、例えばビットコインアドレスだけで決済可能というようなシンプルさだ。また、供給量の調節主体が存在しないためボラティリティが高く、投資、投機対象としての魅力も持っている。世界の金融ビジネスのこれからを考える上で、この仮想通貨の存在は非常に大きい。銀行口座を持たない新興国の人々にとって、初めて利用する金融サービスはこの仮想通貨かもしれない。流通が拡大すれば、特に高インフレの新興国では米ドルに代わる代用通貨となる可能性もあるだろう。

日本でも、決済の仕組みが大きく変わる可能性は十分にある。現在の銀行振込の仕組みから、全銀システムや中央銀行を省き、参加者を銀行に限定したプライベート型ブロックチェーンによる決済システムが誕生し、更にそこから銀行を除いた、エンドユーザを参加者とするパブリック型ブロックチェーンによる決済へと変化するかもしれない。

ここまで変化すると、銀行のみならず、現在エンドユーザと銀行の間で事業を展開しているFinTech事業者もまた、ビジネスを失うことになる。今まであらゆる種類のデリバリーにも、ペイメントという形で関わり、経済活動の不可欠要素を成してきた銀行が、出番を失う事態となれば、公共性維持のための免許制はもはや不要となり、銀行が一般企業と同じフィールドで競争に晒されることも、想定しておかなければならない。

そしてFinTechと同等に、ITそのものの発展も金融ビジネスに大きな影響を与える。スマートフォンやeコマースの普及で、決済スタイルが現金から端末操作へと変化すれば、店舗やATM網による引き出しやすさよりも、端末操作の利便性の方が重視され、いかにして決済口座として利用されるかの工夫が重要となるだろう。そして、IoTの進展により、これまで無かった類の情報が、大量に世の中へ出回る時代を迎えている。他社が入手し得ない良質なデータを、いかにして獲得し、データ分析能力をどこまで向上できるかが、重要課題の一つだと考えられる。

FinTechやITの発展で、顧客接点や顧客データを失う側に入りつつある銀行。一方、AIやIoTを駆使して、顧客に刺さるサービスを生み出しつつある巨大eコマースやSNS事業者。規制緩和により、この両社が同じフィールドで戦うことになる時代に向けて、金融機関はどうすべきか。もし単独での対応が困難であれば、オープンイノベーションでコストをかけずに利便性を追求し、自らはアナログ世界でのビジネスに注力しつつ、デジタル分野はFinTech企業と協業するというのも、一つの道と言えるだろう。

アジアパシフィック各国のFinTechビジネス概況と
日本における次の打ち手

KPMGコンサルティング株式会社 シニアマネージャー 工藤 雄玄 氏
三菱UFJフィナンシャル・グループ KPMGグループがまとめた2つのレポートから、近年のFinTech動向を紹介したい。

グローバル調査レポート「The Pulse of Fintech, Q1 2016」では、FinTechへの投資額は世界的に右肩上がりで、投資額ベースではアジアが北米を上回っていることが示されている。投資ステージ別ではエンジェル投資が最も多く、CVC割合の増加からは、事業会社や金融機関の投資意欲拡大が見て取れる。

「Harnessing Potential」は、アジアパシフィックにおいて、貸付やクラウドファンディングなどのAlternative Finance分野に焦点を絞り、近年の動向をまとめたレポートだ。調査対象503社中、376社は中国企業が占めており、同国は市場規模で見ても全体の98%を占めるなど、桁違いで突出している。アジアパシフィックにおいては、中国や先進国がGDPに比例してFinTech投資額を伸ばす一方、他のアジア諸国はまだアーリーステージにあるというのが現状だ。

この後者のレポートの中から、市場規模順に各国の特徴を見ていきたい。(以降、[ ]内は2015年の市場規模(単位:億USD))

市場規模1位は中国[1,017]。同国の市場拡大には、世界最大のインターネットユーザー数や、アリババなど巨大EC企業の存在が大きい。元々多数の個人向け無担保マイクロローンが存在する文化的側面や、銀行よりも柔軟な融資条件を好む中小企業の存在などを背景として、特にP2P貸付が大きなウェイトを占めている。また、資金提供者の多さも、ユーザー数増加を後押しする要因だ。

2位は日本[3.6]。東日本大震災がトリガーとなり、銀行を介さない資金調達が普及した。低金利の環境下、資金提供者にとっても利回りの良さがメリットとなっている。

3位はオーストラリア[3.5]。政府としての取り掛かりは遅かったが、会社法に投資型クラウドファンディングに関する条項を追加するなど、スピーディーな対応が市場拡大を支えた。4位はニュージーランド[2.7]。政府が早期から規制や枠組みの整備に着手し、少ない人口ながら新たなビジネスが誕生しやすい環境を作ってきた。5位は韓国[0.4]。大統領自らがクラウドファンディングの重要性に言及するなど、国を挙げて推進している様子が伺える。他にも、例えばインドやシンガポールなど、規制緩和が叫ばれる他の先進国とは逆に、関連する当局規制が無いことが問題視され、法整備の議論を進めている国もある。

日本おける次の打ち手は何か。主に次の3分野で、今後さらなる伸びが期待できると見ている。まずは決済分野。国内外送金の手数料が比較的高い日本において、銀行口座までを巻き込んだ、新たな決済の仕組みが登場することを期待する。

そして、クラウドファンディングを含む投資分野、さらにはこれら決済、投資からのデータを活用する資金管理分野で、多くのビジネスを生み出せるだろう。コンビニでの電子決済、スマートフォン上でのEC決済、アプリを使った家計簿管理など、すでにFinTechは日本人のライフスタイルにとって身近なものになっているが、それらはまだ個々に独立しているのが現状だ。

一連で続くお金の流れに沿って、例えば銀行口座、クレジットカード、事業会社の会員IDなどの様々な情報を連携しつつ、EC市場やリアル店舗での需給調整、さらにはメーカーの商品開発、広告にまで活用させるなど、総合的に新たな形を生み出していくことが一つの課題ではないだろうか。規制緩和が契機となり、各プレーヤーが協業、連携しながら、うまく回せる仕組みが誕生することを期待したい。

FinTechをとりまく法規制の最新動向

ベーカー&マッケンジー法律事務所(外国法共同事業) パートナー 弁護士 本間 正人 氏
アンダーソン・毛利・友常法律事務所 ガイドラインが無い中で、様々な既存の法律を、いかにして先進ビジネスにあてはめていくかを検討するという創造的なプロセスが、FinTech法務の最大のポイントだ。

例えば、プリペイドカードや仮想通貨関連であれば資金決済法を、クレジットカードが関わるのであれば割賦販売法を、他にもビジネスの内容に合わせて金融商品取引法、保険業法など、あらゆる法との関係を検証しなければならない。

さらに、ここで言う既存の法律は、金融分野に限らず、個人情報保護法、広告規制、税務など、広範囲に及んでいるのもFinTechの特徴と言える。

既存の類似サービスが関連する諸法令について、適用範囲、議論の状況、問題事例などを分析し、保護法益(何を守ろうとしているか)と、行為様態(何を制限しているか)を整理したうえで、あてはまる部分を見極めていく、そして法定されていない部分は、ロジカルな根拠を検討していくというプロセスが重要だ。

海外で合法であっても、それが日本でも当てはまるとは限らない。海外で先行するビジネスを日本で展開する場合は、日本の法令に合わせた変更を要するという点も忘れてはならない。

FinTechベンチャーが陥りがちな、「思い込み」による落とし穴にも注意を払いたい。例えば、規制分野に参入する際、ライセンスを持つ企業と協業すれば全てが解決するというわけではない。実質的に自社が行っていると見做されるような契約関係や業務内容になってはいないだろうか。意図せず代理・媒介などの規制に触れてしまうことが無いよう、十分な検証が必要だ。

また、財務的・人的リソース管理、システム管理、外部委託管理など、金融機関には一般企業と比べ厳格に守らなければならない義務が非常に多くあることを、FinTechベンチャー側は認識しておくべきだ。これらの義務を負ってまでやるのか、またはその範囲が及ばないようなビジネスモデルが組めないかなど、ここにも多くの検証ポイントがある。

一方、最近では法律サイドからも、FinTechに特化した法改正の動きが出てきている。例えば、一般業種や海外金融機関に比べて厳しかった日本の銀行の出資についても、今回の規制緩和が、銀行とFinTechベンチャーの協業を加速させ、オープンイノベーションを活性化するだろう。

また、仮想通貨についても定義が整理され、交換業およびそれに関連する分野にまで、幅広な規制整備が進み出した。他にも、金融庁のFinTechサポートデスクの設立、経産省のFinTech研究会、各種アクセラレータープログラムなど、FinTechベンチャーがメリットを享受できる取り組みも様々始まっている。

まだ道半ばの段階にある、FinTechを取り巻く法整備の今後の動向を考えたい。法改正により、金融機関によるFinTechベンチャーへの出資が増加し、金融機関によるFinTech事業への本格参入が始まる時代に備え、サービス毎に独立している現行の金融関連規制の枠組み見直しが進んでいる。

また、FinTechの登場で、金融機関とユーザをつなぐ中間業者も増えてきた。今後はこの中間業者に対する規制整備も進められるだろう。そして、日本のFinTechスタートアップの多くは、海外展開を視野に入れている。許認可の要否などで、各国への参入スピードは異なってくるが、日本国内に限定せず、アジアを一括したリサーチが進められているケースも少なくない。イギリス、香港、オーストラリアなど、世界的に官民一体でFinTechを推進している傾向があるため、中長期的には、クロスボーダー取引を意識したグローバルな規制も誕生するかもしれない。

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